先端医療研究センター・感染症分野先端医療研究センター・感染症分野

研究内容

1.COVID-19研究

2020年初頭、日本でSARS-CoV2による感染症(COVID-19)が発生・拡散して以来、東大医科研附属病院でも多くのCOVID-19診療を開始しています。治療薬やワクチンなど様々な治験にも参加しています。COVID-19について、臨床および基礎の両面から以下のような研究を進めています。

1.1 COVID-19についての臨床研究

当院での診療数は600人を上回り、現在も増え続けています。診療にて得られた臨床データ、検査データなど様々な要素を調査しています。その結果、多くの新規かつ興味深い知見を得ることができ、国際誌に発表しています。また、治療薬やワクチンに関する治験にも参加しています。当院ではCOVID-19患者の診療を継続しており、今後も患者診療の向上とCOVID-19の理解に貢献できるような調査を続けていきます。

1.2 COVID-19感染症における腸内細菌叢の役割の解明

消化管および呼吸器の常在細菌叢が局所および全身の炎症を制御している(腸-肺軸)ことを示す証拠が増えてきています。COVID-19は主に呼吸器系の疾患とされますが、下痢や吐き気などの消化器症状がしばしば認められ、ウイルスが腸内で検出されることも知られています。しかしながらSARS-CoV-2の感染に腸内細菌叢がどのように影響するのか、またCOVID-19感染症の発症にどのように関与するのかは不明な点が多くあります。我々はCOVID-19患者の腸内細菌叢について16S rRNAメタゲノム解析を進めるとともに、免疫活性化との相関解析を進めています。また、細菌叢を制御するバクテリオファージなど腸内ウイルス叢の変化についても合わせて解析を進め、COVID-19感染症における腸内細菌叢を中心とした腸内環境の病態への役割の理解を目指しています。

1.3 SARS-CoV2感染と免疫活性化の分子機構解析

各研究機関と共同研究を進めるとともに、COVID-19の病態進行から回復までの免疫活性化のメカニズムを解析しています。

2.肝炎ウイルス研究

我々は肝炎ウイルスの流行把握とウイルス感染と病態の分子メカニズムの理解を目的に臨床学的、および基礎医学的アプローチにより、以下の研究を進めています。

2.1 肝炎ウイルスゲノムおよびワクチン研究

ウイルス性肝炎(A型、B型、C型、E型)を罹患した患者さんの血清や便から、ウイルスゲノムの全部または一部をクローニングして、ウイルスの遺伝子配列を決定し、ウイルスの感染経路や薬剤耐性変異、ワクチン逃避変異を同定するための研究を外部研究施設と共同で進めています。

2.2 腸内細菌叢とウイルス性肝疾患の相関解析

肝臓は腸管と生理的につながっており、相互に影響を及ぼし合っていることが知られています(腸-肝軸と呼ばれています)。近年、肝臓疾患の病態進行に腸内細菌叢の関与が明らかになりつつあり、当研究室では、ウイルス性肝疾患における腸内細菌叢の役割について研究を進めています。また肝線維化モデルマウスを用いて、肝性脳症における高アンモニア血症予防薬であるリファキシミンの作用機序を腸内細菌の変化の観点から解析を進めています。

2.3 C型肝炎ウイルスによるミトコンドリア機能不全を回復させる薬剤探索

HCV感染は肝細胞癌の発生と密接に関連しており、HCV、特にウイルス由来のコアタンパク質によるミトコンドリアの機能障害とその後の活性酸素の蓄積が病態に関与していることがわかっています。我々は、HCV コア遺伝子改変マウスを用いてミトコンドリアの機能を救済する候補物質の検討を行い、肝脂肪化や発癌などの病態の予防につなげる研究を進めています。また、HCVコア遺伝子改変マウスの表現型と腸内細菌叢の変化についても解析しています。

3.HIV研究

HIV感染症は強力な抗レトロウイルス剤の恩恵により生活の質は改善されましたが、根治には至っていません。近年、HIVに感染した方 (PLWH)の高齢化がすすみ、体内に残存するHIVによる免疫細胞への慢性的な炎症により、多岐にわたる成人疾患の罹患が問題となっています。当院では1980年代からHIVに関する診療を開始し、通院された方は1200名を超えており、様々な臨床研究、基礎研究を進めています。現在は、併発する疾患発症の分子機構の解明と予防につながるバイオマーカーの探索を目的に以下の研究を進めています。

3.1 HIV感染症の臨床研究

臨床所見、検査データなどから様々な要素を調査し、多くの興味ある知見を国際誌に発表しています。生命予後、MRSA・ウイルス性肝炎・COVID-19など付随する他の感染症への反応、ワクチンの効果、併発する悪性腫瘍・メンタル疾患などを研究しています。また、他施設と共同で治療薬の治験にも参加しています。臨床現場で役立つような理解が得られるよう研究を継続しています。

3.2 HIV感染血友病患者を対象とした悪性腫瘍の探索的研究

非加熱製剤によりHIVに感染した血友病患者は、老化や免疫機能低下により悪性腫瘍になりやすいと推測されます。そこで、健康診断のシステム設計の構築と運用を目的とし、がん検診の啓蒙をすすめ、悪性腫瘍診断時および診断後のメンタルケアを含めた問題点の解明について研究しています。

3.3 日本における未治療PLWHにおける薬剤耐性HIV-1の伝播の特徴

抗レトロウイルス治療の進歩によりウイルス学的失敗例は減少しましたが,治療歴のあるHIV/AIDS症例の約10%が薬剤耐性株(RS)を保有していると報告されており,薬剤耐性HIVの伝播が示唆されています。2003年以降の日本における薬剤耐性感染症(TDR)有病率の推移について他機関と共同で調査を続けています。

3.4 PLWHの腸内細菌叢の相関解析

HIVは腸管免疫細胞を感染標的とするため、腸管に共生する腸内細菌叢が、病態進行に関与していることが示唆されています。我々はHIV慢性感染における腸内細菌叢の役割の解明を進めています。また、PLWHが併発する他の疾患との関連についても研究しています。

3.5 HIV感染の持続感染と慢性炎症について

私達は、血漿中のウイルスが完全に抑制されているPLWHにおいて、ウイルスの活性化と免疫状態をモニタリングするための効率的なバイオマーカーとして、HIV-1の初期転写物を同定しました。このマーカーを用いて、治療中のPLWHの慢性的な免疫活性化に対する残存ウイルスの影響について解析を行っています。

3.6 潜伏HIV-1リザーバーを再活性化する薬剤の同定

HIVはCD4 陽性細胞に感染します。感染後、HIVのウイルスゲノムは逆転写を経て宿主ゲノムに組み込まれ、プロウイルスとなります。抗レトロウイルス薬はHIVの増殖や新規感染を防ぐことができますが、ウイルスを作らない感染細胞は抗ウイルス薬によって排除されない為、潜伏感染状態になります。そこで潜伏感染細胞を体内から完全に排除するために、新たな治療法としてKick and Killが提唱されています。これは薬剤により潜伏感染細胞を刺激(再活性化)し、ウイルス産生を誘導し、細胞性免疫などを介して感染細胞を根絶しようという試みです。私達は、2015年に東京大学ならびに第一三共株式会社が中心となって開発した、成人T細胞白血病の治療薬として開発されたヒストンメチル化酵素EZH1/2二重阻害剤が持つ、HIV潜伏細胞感染再活性化剤としての可能性の検証を進めています。

4.マラリア研究

妊娠中のマラリアの臨床疫学

マラリアは熱帯地方における死亡原因の第1位です。特に妊婦は脆弱であり,妊娠中のマラリアは母体と胎児に悪影響を及ぼすことが知られています。我々はサハラ以南のアフリカやアジアの研究者らとグローバルな共同研究を行い、妊娠中の抗マラリア薬の有効性・安全性を評価するために臨床疫学研究を行っています。現在、タイで実施された臨床試験の薬理データを用いて、妊婦に対する抗マラリア薬の最適化を目指すプロジェクトも始まっています。

5.その他の研究

エボラウイルスワクチン研究、熱帯病研究、インフルエンザ研究、梅毒研究なども医科研内外の研究室と共同ですすめています。

以上、我々の代表的研究について解説しました。
当研究室は研究生、大学院生を随時募集しております。
興味を持たれた方は、ぜひ[募集(院生・後期研修医)]のページより、ご連絡ください。