旅行者が途上国に1ヶ月間旅行した際に罹患する感染症の頻度は下図のようになっています。
ここでわかるのは圧倒的に旅行者下痢症が多いということです。
このページではこの図をもとに、頻度の多い疾患や重篤なものについて説明します。
図:途上国に1ヶ月間滞在した場合に、何%の旅行者が罹患するかを各感染症ごとに示した
Manson's Tropical Medicine 21版 534ページより一部改変
原因となる細菌や原虫、ウイルスに汚染された食物を摂取することにより感染し下痢を起こします。
病原性大腸菌、赤痢菌、コレラ菌、赤痢アメーバ、ロタウイルスなど様々な微生物が原因となります。
軽い下痢であれば下痢止めを内服して安静をとるだけで十分ですが、嘔吐などで水分補給ができない(脱水になる)場合や血便がある場合は医療機関を受診する必要があります。主な原因と流行地域、特徴は[輸入感染症を診療される医療従事者の方へ(輸入感染症各論[旅行者下痢症])]を参照してください。
予防が大切であり、カットフルーツ(自分で剥いたものは大丈夫です)やサラダ、生の魚介類は避け、十分に加熱調理したものを食べるようにしてください。
また、水はミネラルウォーターか沸騰させたものを飲むようにし、飲み物の中の氷にも注意してください。
食事は不衛生な屋台などは避け、衛生状態の良い店を選んでください。
また、下痢になると水分が奪われ脱水になりますので、可能な限り水分の補給を行うようにしてください。
マラリアはマラリア原虫と呼ばれる寄生虫の感染症です。ハマダラカがマラリア患者を吸血すると、血液中のマラリア原虫が蚊の中で増殖します。この蚊が別の人を吸血する際にマラリア原虫が体内に入り感染が成立します。体内に侵入したマラリア原虫は主に血液の中の赤血球に寄生し、赤血球を破壊することで発熱や貧血を起こします。
マラリアには、熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、卵形マラリア、四日熱マラリアの4種類があり、原因となる原虫はそれぞれで異なります。熱帯熱マラリアは重症になりやすいので、熱帯熱マラリアかそれ以外のマラリアかを見分けることが非常に大切です。
ピンク色の丸い形のものが赤血球、
矢印で示した輪状(左図)または鎌状(右図)のものが赤血球に感染したマラリア原虫です(当科症例)。
(WHO International travel and healthから)
マラリアは熱帯、亜熱帯地域に広く蔓延しています。
マラリアは熱発作と呼ばれる発熱が主症状で、悪寒や震えを伴った発熱が1時間から2時間みられ、その後高熱が4時間から5時間続きます。この時に頭痛や吐き気を伴い、重症な場合には意識障害がみられることがあります。その後大量の発汗とともに解熱します。熱発作のパターンは初期には不規則ですが、熱帯熱マラリア以外は、次第に規則的な熱型になっていきます。潜伏期間、熱発作の周期は以下の表の通りです。
マラリアの種類 | 潜伏期間 | 熱発作の周期 (初期にはあてはまりません) |
---|---|---|
熱帯熱マラリア | 7〜14日 | 不規則 |
三日熱マラリア | 12〜17日あるいはそれ以上 | 48時間 |
卵形マラリア | 11〜18日あるいはそれ以上 | 48時間 |
四日熱マラリア | 18〜40日あるいはそれ以上 | 72時間 |
マラリア対策で一番大切なのは、ハマダラカに刺されないことです。ハマダラカは黒い色を好み、夕方から夜明けにかけて吸血します。防蚊のため以下の点に注意して行動して下さい。
マラリアの予防薬の必要度は、滞在期間、その地域の汚染度、旅行者の行動様式、滞在時期の気候を考慮に入れて判断します。マラリア感染が高度な地域でも、都市部で高級ホテルに泊まり、夜間は外出せず、短期の滞在であればマラリアになる危険は低いですが、感染が低い地域でもジャングルの中で冒険旅行をする場合はより危険となります。乾季には蚊が少ないため比較的安全ですが、雨期の終わりには蚊が増え、感染リスクは高まります。
マラリアの予防薬は流行地に入る少し前から飲み始め、帰国後1〜4週間続ける必要があります。また蚊に刺されてからマラリアを発症するまで少なくとも1週間はかかります。このことを考えると、冒険旅行でない一般的な旅行で、期間が2週間以内であれば予防内服をするよりは、防蚊対策をするほうが良いと思います。予防内服については、以下のページを参考に専門家に相談してください。
A型肝炎はA型肝炎ウイルスに汚染された飲食物を摂取することで感染します。
水、氷、カットフルーツ、生野菜、カキなどの魚貝類が原因になります。2〜6週間(平均30日)の潜伏期間の後に38℃以上の発熱、全身倦怠感、食欲低下、嘔き気、下痢があらわれ、尿の色が濃くなり、皮膚や結膜が黄色くなります。ほとんどは安静のみで良くなりますが、1%程度は重症になります。
東南アジア、アフリカなどの途上国を中心に全世界的にみられます。
A型肝炎ワクチンが有効ですが、3回の接種が必要ですから(2回目は2〜4週間後、3回目は6ヶ月後に接種します)、早い時期に準備を始めてください。出発までに期間のない方は、2・3回目を現地で接種するのも一つの方法です。また、カットフルーツ(自分で剥いたものは大丈夫です)やサラダ、生の魚介類は避け、十分に加熱調理したものを食べるようにしてください。また、水はミネラルウォーターか沸騰させたものを飲むようにし、飲み物の中の氷にも注意してください。食事は不衛生な屋台などは避け、衛生状態の良い店を選んでください。
デング熱は、デング熱ウイルスを持つネッタイシマカやヒトスジシマカがヒトを吸血する際に、ウイルスが体内に入り感染する病気です。
3〜14日(通常は4〜7日)の潜伏期間の後に頭痛や目の奥の痛みを伴う38〜40度の突然の発熱、関節痛、筋肉痛、明るいところで眩しいなどの症状が現れます。発熱は5〜7日続き解熱し、この時に発疹を認めます。ときに再び発熱することがあります。重症例にデング出血熱というものがありますが、2回以上デング熱にかかるとなりやすいといわれています。
アジアの熱帯地域、オセアニア、太平洋、中南米、西アフリカ、カリブ海諸国でみられています。ハワイ(2002年3月)、ケアンズ(2003年3月)などの比較的衛生状態の良い都市部でも少数の発生が報告されています。
予防は蚊に刺されないことです。デング熱ウイルスを媒介する蚊は都市部にも生息し、日中も吸血しますので注意が必要です。
腸チフスはチフス菌(Salmonella typhi)、パラチフスはパラチフス菌(Salmonella paratyphi)による感染症で、汚染された水や食品が原因になります。
1〜3週間の潜伏期の後、39〜40度に階段状にあがる発熱が出現し持続します。胸や腹部に現れる淡紅色の発疹が見られることがありますが出現頻度は低く、感染初期の下痢も半数程度にしかみられません。抗生物質による治療が必要です。
東アジア、東南アジア、南アジア、アフリカ、中南米で流行しています。
予防が大切であり、カットフルーツ(自分で剥いたものは大丈夫です)やサラダ、生の魚介類は避け、十分に加熱調理したものを食べるようにしてください。また、水はミネラルウォーターか沸騰させたものを飲むようにし、飲み物の中の氷にも注意してください。食事は不衛生な屋台などは避け、衛生状態の良い店を選んでください。そして、感染が疑わしいときは、ほかの人に感染させないように排便後は十分に石鹸で手洗いしてください。